「エレファント・イアーを飲もう」(63枚)完成

 締め切りには少し遅れましたが、北狄359号の小説『エレファント・イアーを飲もう』がついに完成しました。青森(小説では青海市)にこだわり、青森のことならなんでも知っている、青森のひとに支えられて生きている男の半生を真面目に書いたつもりです。この作品を日本でなく、親と故郷を捨てた長男がいるニューヨークで書き上げたことに意義があります。
 田中慎也の「共喰い」を読んで、地方の頑なさとか、土着性を感じましたが、あんなふうに暴力的でなく、もっとシンプルに素朴に書きたかったのですが、今回はそれなりに書けたような気がしています。何か、読んでもらって共感してもらえそうな気がしています。ちょっと自分に甘いかもしれません。
 この街には老若男女を問わないかっこいいニューヨーカーたちがうじゃうじゃいます。マンハッタンの5番街のアップルビル、リンカーンセンター、ロックフェラーセンター、MOMA(ニューヨーク近代美術館)の周りには観光客にまじってそんな粋な人がたくさんいます。
 そんな街で、昼に散策し、夜に長男一家が寝静まったときにPCで小説を書くということは、めったにないことです。この数日で30枚を63枚までかけたということは望外の幸せです。
 おとといの木曜日は一人でメトロポリタン美術館に行ってきましたし、今日の土曜日の午後はセントラルパークを散歩し、その足で5番街まで足を延ばし、ユニクロのビルを曲がって、MOMAに行ってきました。
 入場料が25ドル(メトロポリタンと同じ)ということで、ダイナーズカードを出すと、使えないという返事。他のVIZAカードを捜しているうちに、受付係のお嬢さんが、スタッフカードとしてOFFにしてくれました。土曜日なのに、金曜日4時からの無料開放を適用してくれるとは、粋な取り計らいで、ありがたいことです。5階にまっすぐ上がり、ポストカードを20枚入りを買い、本体は15ドルで消費税込み17ドル少しを払いました。
 メトロポリタン美術館でも同じことを感じましたが、絵画における天才とは強烈な個性だとわかりました。それは、近代から現代の美術においてもまさにそうであることは、この二つの美術館を観て回れば一目瞭然です。セザンヌルノアールゴッホピカソ、ダリ、ゴーガン、モネ、マネ、モジリアニ、ブラック、ブラマンク、キリコ、シャガール、カンジンスキー等々、どれも個性の塊です。
 田中慎也には田中慎也なりの強烈な個性があるのはわかります。東北の片田舎に住む私はどんな個性を創出できるのか、これが今後の課題であることもわかりました。
 私が、私だけが、寒さに耐えながらも、純朴さ、素朴さ、素直さを失わず、人間を疑わない、愚鈍なくらいの人の良さ、そういった人間を描ききれば、田中慎也とは違った個性を出せるのではないだろうか。太宰治にもない、寺山修司でもない、ましては三浦哲郎でも、長部日出雄でも書いていない個性的な人間を書けばいいのだ、と思います。
 そのことがわかっただけでも、ニューヨークに来た甲斐があったと思います。