爲政以徳

 今日は「論語」の為政第二篇の「政を為すに徳を以てす」を紹介します。原文はこうです。
 (02-01)「 子曰。爲政以徳。譬如北辰居其所。而衆星共之。」
 読み下し文は以下の通りです。
 「子(し)曰(いわ)く、政(まつりごと)を為(な)すに徳(とく)を以(もっ)てす。譬(たと)えば北辰(ほくしん)の其(そ)の所(ところ)に居(い)て、衆星(しゅうせい)の之(これ)に共(むか)うが如(ごと)し。」と。
 ここで、
 政 … 政治。
 徳 … 道徳。または有徳者。
 譬如 … たとえば~のようだ。
 北辰 … 北極星
 衆星 … 多くの星。
 共 … 新注では「共は向なり」とし、「共(むか)う」と訓読する。 吉川幸次郎はここを「星たちがその方向に向かっていると説く朱子の新注の説は共の字の訓詁として適当でないであろう」と言っています。(吉川幸次郎論語 上』朝日選書)
 古註では「共」は「拱」の仮借であるとし、「拱」は説文に「手を斂(おさ)むるなり」とあり、拱手(きょうしゅ)する姿勢(両手の指を胸の前で組み、礼をすること)であるとする。この場合は「共(きょう)する」と訓読するとあります。
 之 … 北辰をさす。
 為政以徳 … 宮崎市定は「為政以徳の四字は恐らく古語で、有徳の君主の政治のあり方を言ったものであろう。そのような君主は別にあくせくと動きまわる必要がなく、百官や人民が君主の意を体してそれぞれの業務に励むものなのである。そのさまは宇宙の星が北極星を中心として回転するような状態さながらである」と言っています。(宮崎市定論語の新研究』岩波書店
 この章の岩波『論語』の金谷訳はこうです。
―先生がいわれた、「政治をするのに道徳によっていけば、ちょうど北極星が自分の場所にいて、多くの星がその方向に向かってあいさつしているようになるものだ。」と。
 つまり、孔子は「(為政者が政治をおこなうときに徳政をおこなえば)人心はすっかり為政者に帰服する」と言っているのです。

 解説はいらないと思います。ただ問題になるのは、どうすれば「徳を以ってする」ことができるかです。徳、すなわち、道徳をもって政治を行うとはいったいどういうことなのだろうか、ということです。
 宇野哲人の『論語新釈』によれば、この章は徳治主義の効果を述べたとされ、「上に立つものがまず己の身を正して下を率いるというのが儒教の主義である」としています。
 北辰は北極星のことですから、十二支についても復習します。
 子(ねずみ)、丑(うし)、寅(とら)、卯(うさぎ)、辰(たつ)、己(へび)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(にわとり)、戌(いぬ)、玄(いのしし)と書きます。