海も山もみたことのない女子学生

 8日は卒論の4年生8人と近くの餃子屋へ行って、忘年会と就職説明会に行く学生の壮行会も兼ね、ささやかな宴会を催した。9人で飲んで食べて250元(3250円)だから大したことはない。8人のうち3人が筑波大学の大学院に進学し、もう1人は九州の日本語学校(中国留学生向けの大学院予備校)にいくことが決まっていた。来年の9月には半数の4人が日本に留学することになる。残りの4人のうち、一人は東北師範大学の大学院に受験するという。1月15・16日が試験のため、準備が進まず少し悩んでいた。とにかく、全力を挙げて勉強するよう、私は励ますしかなかった。残りの3人は就職組。そのうちの1人が週末に大連市で行われる日系企業の就職説明会へ赴くことになっていた。面接・履歴書の書き方の相談に彼は2度も研究室に現れた。すごく素直で、ハンサムな朝鮮族出身の好青年だ。中国語、韓国語、それに日本語ができるのだ。この夜私は、ビールを飲み、梅酎で乾杯していい気持ちになり、星の見えない暗黒の空を見上げながら8人に囲まれて宿舎に戻った。
 昨夜は、日曜日の日本語1級試験を受けた3人の女子学生の今後の相談会も兼ねて、これまた忘年会をやった。延吉市出身で朝鮮族の学生は合格点をはるかに超える点数を確認し、これから何をすべきか相談しに5時にやってきた。あとの2人は授業を終えてから7時にやってきた。2人は日曜日の回転寿司に来なかった仲間である。
 この2人はいままで、海をみたことがないという。中国には修学旅行がなく、したがって親が旅行に連れて行かないと故郷から一歩も出ないで育つという。それで、大学に入って初めて故郷を離れるという学生が少なくない。だから、海に遠い内陸部で育った二人は海を見たことがないという。長春にも海はない。だから、3年になっても海をみたことは一度もないのだ。それだけではなかった。ひとりの子は、大学に入学するため汽車に乗って丸1日かけて長春に来るまでは、山すら見たことがなかったという。長春市内も確かに山は四方に見当たらない。しかし、彼女が故郷を発ち、汽車に乗って長春へ向かう途中、山が見えたときには感動したという。彼女の河北省の故郷では、山も海もない、ただだだっ広い平原が果てしなく広がっているのだそうだ。両親はそこでいまも農民をしているという。
 日本の大学生で、海も山もみたことがない学生が果たしているのだろうか。中国とは、とてつもない国なのだ。その子は、3人の中で日本語は一番不得意だが、頑張って日本で働きたいと目を輝かせ張り切っている。こんな風に、私は毎日驚きと感心のなかで生きている。