小野允雄のエッセー「形而上の野球」

 文団・遙の50号を読んでいて、小野允雄さんのエッセーが目にとまった。弁護士の彼は、北狄作品集3で『ガラスの救援投手』を書くほどのプロ野球通だが、このエッセーで「野球の美しさは、芸術的な美しさに達している」とし、「つまるところ、野球は均衡と不均衡の美であり、常に破壊される美だ」と結んでいる。
 私も野球は好きだが、ボストンのフェンウェイパークで観たボストンレッドソックスの試合のことは忘れられない。初めて観る大リーグの試合は日本のプロ野球の印象からは想像を超えていた。マウンドの大男が投げる白いボールがもの凄いスピードでキャッチャーのミットに吸い込まれる。黒人のバッターの空振りの音が聞こえ、汗が飛び散る。観客は一球ごとに息をつめ、球の行方を見つめる。緑の芝生とマウンドの茶色がまばゆい。小野さんの表現がぴったりだと思う。
 大震災でプロ野球の開催が遅れ、宮城や福島の高校野球は春季大会は中止で、東北大会も開かれない。今年こそ、との思いで練習してきた選手たちの気持ちを考えるとせつない。
 プロ野球は今日が開幕だが、我が家の庭にも春が訪れている。八甲田シャクナゲの木に大きな蕾が膨らみ始めた。わたしも陽気に誘われて外に出てみることにした。