坪内捻典『カバに会う』

 坪内捻典さんは俳人歌人である。佛教大学文学部教授で日本の詩歌の他に、正岡子規夏目漱石の研究家でもある。東日本大震災福島原発事故放射能汚染におののきながら、未明の地震と二度目の停電でこの世の終焉の予感に震えた。
 そういえば、3月11日も金曜日だった。奇しくも同じ金曜日。眠れるわけがない。思い浮かんだのが、坪内捻典先生だった。
 敬愛する捻典先生は言う。「気分が沈滞すると言葉も元気を失う。感性とか思考とかも鈍る。いつのころからか、そのように考えるようになった私は、意図して自分の気分を刺激し、わくわく感を醸そうとした。それが、カバに会うという行動になった。過剰なまでに何かを愛することが私の気分を刺激した。その愛する何かは、一般的にはあまり高く評価されていないものがよい。どちらかといえばバカにされたり見過ごされたりしているもの。そういうものを過剰に、しかも意識的にこだわって愛するとき、気分がわくわくする」
 私も捻典先生に見習って、弘前城に桜の咲く頃、加藤嘉一の「伊豆から北京に来た男」の日本語訳を終えたら、ハイブリッドカーで日本一周の旅にでる。そして、日本中の動物園を観て回りカバにご挨拶してきたい。私にカバが愛せるか、そのことを確かめる旅だ。ついでに、ライオンも観てこようっと。
 河馬の檻中 春自ら在り(中島敦