自分にしか書けないものを書く

 福島第一原発の重大事故がいまも終息せず続いている。私の予想では、敷地内の土壌からプルトニウムが検出されたことから、福島の浜通りの土地は今後、二度と使えない恐れすら感じる。何せ、プルトニウム239は半減期2万4千年の人類の敵といわれる冥界の王なる元素だからだ。これから、東日本の人たちはプルトニウム・シンドロームという肺癌の恐怖に死ぬまで襲われることになる。そして、東日本で子どもを産んではならないし、東日本の人と結婚してはいけないというとんでもない差別が始まるような気さえする。恐ろしいことだ。
 亡くなった服部進北狄代表から生前に「君にしか書けない。科学、とりわけ原子力施設の大事故のことを想定して、どんなことが起こるのか想像力の限りをつくして書きなさい」と言われていたのを思い出している。
 私はかつて、服部先生から指摘される前に、東海村のJCOの臨界事故に材をとり、『冥界の王』として「遙」と「北狄」に発表した。いまこそ、もう一度、これらの作品を読み直し、現実に起こってしまった大事故をもとに再度書き直さなければならないと思う。服部先生の教唆に報いるためにもだ。