魯迅博物館

 今回の中国の旅で、私にとって一番の収穫であり、望外の喜びだったのは、北京で天安門広場から故宮博物館の横に抜けて、タクシーを拾って北京動物園に向かう車中で「魯迅博物館」を見つけたことだった。その日は午後いっぱい動物園にいる予定を変更したのは当然の成り行きだった。
 二度目の北京動物園だったので、カバ、ライオン、虎、そして金糸猿をみて、そこそこに動物園を出ると、たまたま通りかかったタクシーに飛び乗って、「魯迅博物館」の案内を乞うた。
 しかし、タクシーの運転手はなかなか魯迅博物館を見つけられなかった。漸く、反対側の道路で車を降りて商店に入った運転手はニコニコ顔でもどってきた。中央分離帯をはさんだ向かいに「魯迅博物館」の看板が出ていた。わたしは高架線の上からその看板を見たのだった。
 小路を入った奥の突当りが魯迅の博物館だった。人民解放軍の衛視が銃を構えて、門の前に立っていた。教え子が私のパスポートと自分の学生証を手に受付に走った。無料との答えをもって、教え子はパンフレットを手に私を門内に招き入れた。
 正面の庭に、斜に構えた魯迅の胸像が建っていた。その向こうが博物館の本館で、隣の建物が魯迅の家がそのまま残されていた。魯迅の書斎は質素で、机の正面は壁で、魯迅は左手の窓から空を見上げ、鬱々とした当時の世相と政治情勢を想っていたことが偲ばれた。
 三階建ての博物館は、きれいに清潔感あふれる室内と適度な照明が施され、誕生から亡くなるまでの魯迅の一生が、それぞれの居住地ごとに整理され展示されていた。仙台医専時代の学籍簿と成績表も展示されていたのには驚いた。
 何時間いても飽きないほどの内容のある博物館だったが、4時閉館の20分前から、閉館・閉門されるので早く観覧するよう促され、心残りだったが、3時55分に退館せざるを得なかった。
 しかし、とても楽しくて有意義な1時間半を過ごすことができ、幸せだった。