加藤嘉一の「中国の論理」にみる現代中国

イメージ 1  加藤嘉一さんの『中国の論理』という中国語で書かれた本を読んでいる。彼は北京在住の若手ジャーナリストの筆頭である。その彼が書く中国語の本を読むのはこの本で三冊目だ。
 1984年に伊豆で生まれた加藤さんは、山梨学院大学付属高校を卒業後、現役で東大合格を蹴って、単身北京大学に留学した俊英だ。北京大学で国際関係論を学び、修士課程を修了して、北京大学の研究生の傍ら、北京人民大学付属中学で教鞭もとっていた。そんななか、中国語を縦横に操れる日本人の若手論客として北京のマスコミで脚光を浴びるようになって、テレビのコメンテーター、評論エッセー作家として売れっ子である。
 加藤嘉一さんのブログは日に10万人にもフォローされているという具合に、私の教え子のなかにも彼のブログをみている学生が多数いた。彼の中国語は、中国人の中国語より正確だというのだ。
 その加藤嘉一さんが2011年4月に、おそらく6冊目だと思う中国書『中国の論理―ひとりの日本青年がみた中国』を昆明市の云南人民出版社から刊行した。彼は言う。現在の中国と中国人を読み解くために41のキーワードから論説した、と。彼が読み解く中国の論理の41のキーワードのなかには、都市、経済、改革、緑バ、奥数(オリンピック数学)、蜗居、体改、教師、女性、イケメン、地震、学費、閑人、ネット、万博、アジア競技大会、成功、地下鉄、サービス、保護者、民工、礼儀、小銭などがある。この本を読めば、いまの中国と中国人(とりわけ若い世代)のことがほぼ完璧に理解できる。ひとつだけ弱点があるとすれば、どれだけの人数の人がいるかどうかわからないが獄中の劉暁波氏をはじめとする反体制派・民主化支持者の論理とその実態である。でもそのキーワードは今の中国では禁句であるだけにやむをえないのかもしれない。
 私が気になったのは、加藤嘉一さんの提起する41のキーワードのなかに、日本の現代文学者で中国でも人気のある大江健三郎村上春樹が東洋の文豪と評価する魯迅の名が入っていなかったことである。もはや中国を読み解く鍵に魯迅の論説や作品が入っていないことになる。二十歳のときに竹内好に出合い、それが契機となって魯迅を敬愛するようになった私にとって、教え子から「いまの中国では高校の教科書から魯迅の名が消えている」と告げられたこととあわせ、寂しくてしょうがないのだ。
 写真は、北京の魯迅博物館の展示室正面で中には、魯迅の仙台医専時代の成績表も展示されている。