三田文学で勝又・伊藤両氏に評価される

『文学界』の同人雑誌評が幕を閉じてから、それを引き継いだのが季刊の『三田文学』である。春夏秋冬に発行されている三田文学では、「新 同人雑誌評」として生まれ変わった。我が国で唯一の全国同人誌に発表された小説の評価を勝又浩と伊藤氏貴の二人が対談形式で評を下している。
 8月1日発行の三田文学110号(夏季号)の同人雑誌評では20誌のなかに北狄358号が、そしてそれに発表した「北の螢に魅せられて」が、取り上げられた27作品のなかに入ることができた。
 今回、「北の螢に魅せられて」は8番目に取り上げられた。
伊藤 次は笹田隆志『北の螢に魅せられて』(「北狄」)です。
勝又 秋田大学の同期生で、一緒の寮だった二人の学生の話です。語り手の友達はホタルを養殖していて、そのホタルは実は父親が面倒を見ていたものなんですが、父親は出稼ぎに行った先で女性が出来て、帰ってこなくなってしまった。そういう背景があるのが段々わかっていく。友達の父親との関係が、養殖されているホタルを軸にして語られます。学校を卒業してからも、友人は毎年ホタルを語り手に送ってくれていたのが、ある年来なくなる。そこへ父親が訪ねて来て、彼が白血病で亡くなっていたことを知らされる。人間関係がうまく書けていました。
伊藤 大学や大学院についての書き込みが時代に即してしっかりしていました。お互いに付けあったあだ名が、「獅子丸」と「ホタル王子」で、あんまりかっこよくないからこそリアルだなって思いましたね。ホタルのことも詳しく書いてあって、これが話のモチーフとして重要な役割を持ちます。ホタルがクール宅急便で送られるっていうことが、私は驚きでしたね。養殖されているということは、もはやその周辺でもホタルがいないということであって、自然にいたのが段々減ってしまって、光が点滅しながら消えていくっていうところが、話に重なっているように思いました。
勝又 父親が出稼ぎに行って、その先で女が出来て、という面はあんまり追っかけないけれど、後になってパチンコ屋の警備員をやっているのがわかるという、その説明だけでその後のことは十分に想像できる。昔は父親を憎んでいた友人が、ホタルを介して父親に、戻って来てまた養殖をやれと言う。父親を受け入れようとする息子の気持が、語り手を通して伝わってきて、その表現がなかなかうまいです。