今日の論語一日一章「殷因於夏禮」

 一つの小説を書き上げ、しかも、定期の受診結果も良好とあって、極めて順調に11月を迎えました。
 孔子が言うように、心を静かにもって、善をおこない、日々学問して人格を高め、小説を書く喜びを感じています。あとは、私が書いた小説が、読んでくれる人の魂をゆさぶり、ともに生きていることを実感してもらえるかどうかです。

 今日の孔子論語一日一章」は、第2篇「為政第二」の第23章「殷因於夏禮」(殷は夏の礼に因る)です。早いもので、この次の第24章で第2篇「為政第二」は終わりとなりました。
 この章の漢文原文はこうです。
 「子張問。十世可知也。子曰、殷因於夏禮。所損益可知也。周因於殷禮。所損益可知也。其或繼周者、雖百世可知也。」
 この原文の読み下し文はこうなります。
 「子張問ふ。十世知るべきか。子曰く、殷は夏の礼に因る。損益する所知るべきなり。周は殷の礼による。損益する所しるべきなり。其れ或ひは周に継がん者は、百世と雖も知るべきなり。」
 ここで、中国語簡体表記はこうなります。
 「子张问。十世可知也。子曰,殷因於夏礼。所损益可知也。周因於殷礼。所損益可知也。其或继周者,虽百世可知也。」
 これの日本語精訳はこうです。
「子張が孔子に問ふた。今から十代後のことはわかりますか、と。孔子が言われた。今より後の事を知ろうとするには今より前のことを観なければならぬ。夏殷周と三代王朝が続くが、殷は夏の礼を因襲していて、何を減じ何を増したかということは今から知ることができる。周は殷の礼を因襲していて、何を減じ何を増したかということは、今から知ることができる。それゆえ、もし今後周に継いで王となる者があるならば、ただ十代に止まらず、百代後のことでも推して知ることができる。」
 この章の語句、語彙の解説は以下のとおりです。
 世;代と同じ。一つの王朝が支配する間を一世といいます。
 礼;三綱(君臣、父子、夫婦)五常(仁、義、礼、智、信)のことそいいます。
 因る;因襲することを、いいます。
 損益;増減するという意味です。余りある所を減じ、足らない所を増す事、だいたいは前代の礼に依るが、時勢に応じて、枝葉にわたる所を増減するのです。たとえば、夏は忠を尚(とうと)び、殷は質を尚び、周は文を尚ぶとか、正月にする月を変えるとかいう類です。
この章は、礼制の因るところはあらかじめ推知されることを述べています。
 孔子の弟子の子張はある特殊な方法で未来のことをあらかじめ知ろうと思ったのでしょうけれど、孔子はただ過去の経験を推して未来を知ることを述べています。後の先進篇で孔子が、『師(子張の名)は過ぎたり』と評しているように、子張は難しい事をすることを好む人であるから、『十世知るべきか』などは子張の問いそうなことであります。孔子の答えには、子張のこのような性質に対する考慮が含まれていたと思われますが、また、一面、孔子の教えの論理的であって、後世の奇術や占いなどによって、予言する者と異なることが窺われるのです。