晏子(あんし)、景公に仁を説く

列子」の(力命第六)に斉の景公に関する有名な章があるので紹介します。

 斉(せい)の景公(けいこう)が、都の郊外にある牛山(ぎゅうざん)にのぼった。北の方の国城(みやこ)を見下ろして、涙を流して言った。
美しい国だ。緑もゆたかである。もし昔から死という宿命がなかったならば、私はこの国を去ってどこへも行こうとは思わないだろう(いにしえより死なるものなからしめば、寡人はたここを去りていずくにか之かん)」
 そばにいた家来たちも「わたしどもですら死にたくはありません。ましてやわが君におかれましては」と一緒に泣いた。
 そのとき、「列子」力命第六;
 斉(せい)の景公(けいこう)が、都の郊外にある牛山(ぎゅうざん)にのぼった。北の方の国城(みやこ)を見下ろして、涙を流して言った。
美しい国だ。緑もゆたかである。もし昔から死という宿命がなかったならば、私はこの国を去ってどこへも行こうとは思わないだろう(いにしえより死なるものなからしめば、寡人はたここを去りていずくにか之かん)」
 そばにいた家来たちも「わたしどもですら死にたくはありません。ましてやわが君におかれましては」と一緒に泣いた。
 そのとき、晏子(あんし)だけは笑って言った。
「もしも賢者が永遠の生命を持ち、国に君臨できるものであるならば、わが斉の開祖・太公望(たいこうぼう)や、わが君の代々の御先祖がいまだにわが国に君臨していることでありましょう。もしそうなれば、失礼ながら、わが君の出る幕はなかったでしょう。今ごろわが君は、きっと、蓑や笠を身につけて、野良仕事の心配で頭がいっぱいで『永遠の命があれば』などと悠長な感傷にひたる暇も無かったことでしょう。代々のこの国の主君たちが次々と世代交代して去っていったからこそ、今のあなた様の時代になったのですよ。もし、あなた様だけが死にたくないと涙を流すなら、仁(じん)ではありません。わたくしめは、不仁の主君とこびへつらう家来と、二つも目のあたりにして思わず笑ってしまったのでございます」
 景公は恥じて自ら罰杯を飲み、ふたりの家来にもそれぞれ二杯ずつ罰杯を飲ませた。

 これは、斉の宰相・晏子(あんし)についてのエピソードであり、孔子も彼のことを尊敬していたとされています。