家に閉じこもること5日目

 11月1日の朝、リンゴの中国輸出の話を訊きに県庁の観光局へ行って、同行した浪岡の海老名市議とラプラスでランチを食べて帰ってから、痛風がひどくなった。
 左足の踵の痛みに加え、親指の付根まで痛みが広がり、足の甲すらつけない状態になった。そんなわけで、1日の正午過ぎから一歩も家の外に出れない状態が続いている。
 明日にはきっと、痛みが引けるはずだと思って節制しているのに、2日、3日と左足の痛みはだんだんひどくなり、3日の夜には生きているのが厭になるほど激痛が朝方まで続いた。
 4日には少し痛みがひけたので、このまま快方にむかうのだろうと思いきや、夕方から痛みがぶり返し、こんどは右足親指の付根にまで痛みがひろがった。
 結局、3日の夜も、4日の夜も、夜、2時間おきくらいにトイレに起き、そのたびに悲鳴を上げた。100キロの体重が95キロまで減っていたものの、自分の体重の重さと普段それを支えている足の役目の重大さを痛いほどに感したのだった。
 布団から起き上がるのがいかに難しいかを実感してベッドの有難味も理解できた。体が不自由であることが、これほど人間にとって大きな意味をもつものだと改めて理解し、健康、健常であることの意義を肝に銘じたのだった。
 そんな苦闘の夜を明かし、やっとのことで起き上がり、今朝の新聞をなにげなく見ていたら、何と東奥日報の13面の演劇批評の欄に、劇団「野の上」東京公演の「不識の塔」が激賞されているのを見にした。
 その中で、畏友佐々木英明が、「いずれも個性的な俳優陣にあって、(斎藤)主(つかさ)の友人役(医師)を演じた元天井桟敷の佐々木英明が飄々とした佇まいで健在ぶりを見せていた」と高い評価をあたえられていた。
 かつて、寺山修司に見出され、その才能を高く評価され、映画や劇に多数主演した佐々木英明はこの「不識の塔」に客演していたが、彼の演技によって、この舞台は成功したのだと私は感じていた。彼がいなかったら、この劇はリアリティーのない単なる不条理劇に終わっていたであろう、と。
 私は、この記事を書いた演劇評論家の柾木博行という人を知らないが、「今、東京のみならず全国レベルで注目を集めつつある青森の劇団が野の上だ。その第3回公演が「不識の塔」が東京都青森で上演された」とし、「野の上の芝居は、圧倒的な力技で観客を劇世界に引き寄せ、舞台にいる人間の生に集中させ」、さらに「これだけのパワーで観客をわしづかみにする劇団はなかなか出会えない」と最高級の賛辞を送っていることを目にし、正直言って佐々木英明が誉められているみたいでとても嬉しかった。
 あの「不識の塔」で佐々木英明が演じた、どこか人間臭いが、人の好いがずるさも併せ持つ、それでいてヒョウキンナところのある老境の田舎医師の、あのおさえた演技にとても共感をおぼえたのだった。そんなことを思い出しているうちに、どうやら痛風の痛みまでが峠を越していることに気づいた。
 生まれて初めて、こんな経験をした。明日の日曜日も1日家にいて静養を兼ねて休養を続けるつもりだ。
 月曜日になっても治らなければ、今度こそ病院へ行こうと心に決めて。