苛政は虎よりも猛し

 『礼記』の檀弓下に「苛政(かせい)は虎(とら)よりも猛(もう)なり」との言葉があます。
 不退転の覚悟とか、命がけでやる、と野田首相は言っているようですが、いまの消費税増税法案はまさに苛政の最たるものではないかと思います。
 増税はしない、無駄をしないということで、今の民主党政権は誕生したはずです。その政権公約を守ろうと努力したのが、どうしても守れなくなったら、新しい公約を示して、それで国民の信を問うべきではないのか、と思うのです。
 高名な政治家や専門外のことに口を挟む独善的な科学者の言うことに騙されるな、とは魯迅箴言ですが、孔子の「苛性は虎よりも猛し」という言葉は、人民を苦しめる増税は苛政であるとして、徹底した節約と減税こそ善政だと言っているのです。
 原文はこうです。
 「孔子過泰山側。有婦人哭於墓者而哀。夫子式而聽之、使子路問之曰、子之哭也、壹似重有憂者。」
 この読み下し文はこうです。
 「孔子(こうし)泰山(たいざん)の側(かたわら)を過(す)ぐ。婦人(ふじん)墓(はか)に哭(こく)する者(もの)有(あ)りて哀(かな)しげなり。夫子(ふうし)式(しょく)して之(これ)を聴(き)き、子路(しろ)をして之(これ)に問(と)わしめて曰(いわ)く、子(し)の哭(こく)するや、壱(いつ)に重(かさ)ねて憂(うれ)い有(あ)る者(もの)に似(に)たり、と。」
 ここで、注釈は次のとおり。
 泰山 … 五岳の一つ。今の山東省西部にある。
 式 … 車の手すりに寄りかかって頭を下げ挨拶する。
 原文を続けます。
 「而曰、然。昔者吾舅死於虎、吾夫又死焉、今吾子又死焉。夫子曰、何爲不去也。曰、無苛政。夫子曰、小子識之、苛政猛於虎也。」
 読み下し文です。
 「而(すなわ)ち曰(いわ)く、然(しか)り。昔者(むかし)吾(わ)が舅(しゅうと)虎(とら)に死(し)し、吾(わ)が夫(おっと)又(また)死(し)し、今(いま)吾(わ)が子(こ)又(また)死(し)せり、と。夫子(ふうし)曰(いわ)く、何為(なんす)ぞ去(さ)らざるや、と。曰(いわ)く、苛政(かせい)無(な)ければなり、と。夫子(ふうし)曰(いわ)く、小子(しょうし)之(これ)を識(しる)せ、苛政(かせい)は虎(とら)よりも猛(もう)なり、と。」
 注釈を付け加えます。
 夫子 … 孔子を呼ぶ尊称。
 何為ぞ … どうして。
 小子 … 先生が門人に呼びかけることば。
 苛政 … 人民に対する厳しい政治。
 いくら虎(によって舅、夫、息子が犠牲になっても、その地を離れないのは、政治が人民にやさしく、増税をしないからです、と泰山の墓で弔いをする婦人の言葉に孔子は教えを受けています。
 ここで、虎を東日本大震災福島原発事故に置き換えてみれば、政府が今何をしなければならないかは、おのずとわかるはずです。
 孔子の時代から2500年を経た現代は、まさに環境社会主義というか、環境共生民主主義の時代に入ったのだと思います。
 橋下流全体主義は一時的に脚光を浴びていますが、政治が落ち着きを取り戻せば、いまの怒涛の勢いと名声は消えるはずだと思います。日本国民の叡智が問われています。