天安門広場の水

イメージ 1  中国では生水は飲めない。それに比べ、青森の水道水はそこらのミネラルウォーターよりはるかに美味い。夏は、魔法瓶に冷蔵庫でつくった氷を入れ、それに水道水を注ぐ。1分後のそれを飲む。とても冷たくてうまい。咽越し爽やかだ。生きた心地がする。
 しかし、中国ではそれは大変なことになる。冷蔵庫で水道から氷をつくることも、その氷で水道水を飲むことは、即、食中毒までいかないまでも、内臓疾患を引き起こすのは間違いがない。胃や腸に絶対に自信をもっていた私でも、間違って風呂のシャワー水を少し飲み込んだだけで恐ろしい下痢に襲われた。だから、長春時代には飲料水はすべてミネラルウォーターだった。珈琲を飲む時も決して水道水を使うことはなかった。
 今回の中国の旅は、暑い夏の季節だった。バスに乗るにも、電車に乗る時にも、ミネラルウォーターのペットボトルは手放せなかった。中国では自然空冷が基本で、エアコンなど望むべくもないから、長時間の乗り物は熱中症対策で水分補給は欠かせない。集安の二日目、半袖シャツの後ろ半分が白くなっていた。何と汗の塩分が固化したものだった。普通、180佞離撻奪肇椒肇襪錬泳棕姥機13円)が相場だ。ホテルの隣のスーパーの値段だ。缶ビール350佞錬蓋機39円)かせいぜい4元(52円)。それが、ミネラルウォーター1本が観光地(集安市の鴨緑江河岸、瀋陽故宮博物館)だと2元(26円)にはね上がる。それくらいはまだ許せる。中国共産党の建国90周年を祝う天安門で中国の現状を物語っていると思われることに偶然でくわした。
 私と教え子の周君は7月14日朝、タクシーでホテルから北京駅に行き、長春へ15日にもどる切符を買い、その足で地下鉄に乗り、天安門広場に出た。天安門の大通りをはさんで向かいの人民大会堂前の広場にはおそらく数万人はいるくらいのもの凄い民衆が灼熱の炎天下で開放されている人民大会堂へ並んでいた。朝10時過ぎでこうである。いったいいつになったら入場できるのか皆目見当もつかなかった。
 向こう側の天安門から紫禁城へ入場すべく、地下道をくぐる前にミネラルウォーターのペットボトルを買うことにした。
 しかし、周君は買うのを躊躇した。私の方を振り返って、「1本3元(39円)ですよ。それでもいいんですか」というので、私は「死ぬよりましだ」と言って笑ったのでした。広場には観光客や市民で溢れていたが、間を縫うようにしてビニル袋をもった清掃員が飲み捨てられたペットボトルを回収して回っていた。千人くらいの塊に一軒ずつの水売り屋がいた。
 どんどん飛ぶように売れていくペットボトルの水を眺めながら考えた。通常1本1元の水を、3元で売るというのは、あまりにも高過ぎると思った。売り子がもうかるはずはない、とも思った。観光地の元締めが1元ピンはねしているのはわかる。問題はあと1元だ。天安門広場を管理している共産党の幹部に賄賂として払うのだと周君は言った。私も「さもありなん」と思った。
 でも、と考えてみた。仮に1日に1万本売れたとしよう。すると日に1万元、月で30万元(約400万円)もリベートが入る勘定だ。そうでもなかったら、広場の管理者が1本1元を3元で売ってもいいと許可をするはずがない。実際には、もっと人が多く、もっともっとペットボトルが売れているはずだ。もの凄いことだ。質より量で、搾取をする自営業者の元締めと党の幹部がどんどん富を蓄えていくのだ。それが中国の実態なのだと思った。
 中国では地方政府の書記になれば、関連する企業の経営者となり(したがって兼業ができる)、書記の給料の何十倍もの収入があるのは当たり前だという。これでは、共産党一党独裁が続く限り、こうした腐敗があらたまることはないのだろう、と思ったりした。
 写真は、天安門のすぐ前の歩道から、天安門を撮ったものである。