『孔子 死生命あり』の校正終わる

 東京の出版社の友人の世話で、社外校正の仕事を初めてやった。
10月の下旬から取り掛かり、11月の29日に著者の原稿とゲラ刷りの初校をバッグに詰め、飛行機で出版社にとどけた。宅急便でもよかったが、最初なので築地の出版社まで出向き、校正個所と疑問個所を校閲責任者でもある友人へ直接説明した。友人は私の校正と疑問個所を一つずつ著者と協議しつつ、1月の下旬に著者の原稿修正と加筆部分を加えた再校刷りを初校のゲラとともに送ってきた。
 本文だけで520頁、これに注釈、参考文献、著者あとがきを加えると540頁の大作の再校も、初校の時と同じように骨が折れた。原稿の加筆が総計で10枚近くもあり、それによって注釈の頁・行の数字も全部修正された。註だけでも80近くもあるのだから、それをチェックするのだけでも大変である。
 その再校の仕事を昨日、漸く終えて、宅急便で送り終えたときの満足感は近年にないものであった。本の校正というものは、実に骨の折れるものである。出版までには、私の再校と著者の再校をつき合わせて、それを3校とし、さらに最終の念稿を重ね、さらに最終のチェックを終え、責了となるのは来月の半ばである。もうこの小説における私の仕事は終わった。初めてで、最後の仕事になるかもしれないが、実によく勉強させてもらったし、参考になることが多かった。
 とにかく、孔子が誕生してから逝去するまでの73年間の生涯すべてを丹念に描いた日本初、いや世界でも初の歴史小説である。とにかく校正していて、何度も何度も読み返したが、本当に面白い内容の本である。
 読めば読むほど、孔子の人間像がはっきりと胸に刻み込まれる内容となっている。もちろん、論語のもっともすぐれた解説書ともなりうる内容で、しかも弟子たちの特徴も実によく描かれている。また、孔子が遊学し、仕官先を求めた周、衛、魯、斉、宋などの春秋時代の諸侯国はもちろんのこと、孔子が生まれる千年も前の殷王朝のことまでもわかるようになっている。中国の歴史を理解する上で、格好の歴史書といえる。いままで、世界最高の「人生の教師」と言われてきた孔子とその孔丘学塾の全体をこれほどていねいに書いた本はどこにもないはずだ。
 まさに著者自身の生涯をかけた、畢生の大作、傑作と言っていいものだと思う。4月に全国の店頭に新刊本として並べば、すぐに絶賛の嵐となるのは必定だと思う。そして、この本が何かの賞をもらうと思うし、そうした本にほんの少しだけど関わることのできた幸せを感じている。著者から感謝の意も表されたのだ。率直に、素直な気持から嬉しい。
 さあ、あとは22日まで、『城ヶ倉大橋』の加筆修正と、北狄にだす『北の螢に魅せられて』を書くだけだ。
 『孔子 死生命あり』の校正経験を参考と教訓にして、あと一週間集中することにする。