大江健三郎の「『魯迅箴言』に寄せて」

 今日は、大江健三郎が「魯迅箴言」に寄せた一文を紹介しよう。
 
「 魯迅の小説・エッセイの一篇、一篇は、世界の近代、現代の散文の王である。その一行、一行を選びとれば、最良の詩集となる。
 
 私が森のなかの村から都市の学校に向かう朝、母親が黙って魯迅の短編小説集をくれた。最初の帰省をすると、――「故郷」を読んだか、と訊ねられた。
 こうして私は文学と出会い、社会で生きる基本姿勢を教えられた。私がこれまでに経験したもっとも不思議な幸運。
  2010 新春」
 
 このように大江は魯迅箴言に最大級の賛辞を述べている。「世界の近代、現代の散文の王」であり、「最良の詩集」だとしている。また、魯迅との出会いは「これまでに経験したもっとも不思議な幸運」とノーベル賞作家が書くほどに魯迅の文章は読む者の心をとらえて離さないのだ。