「温故知新」の中野孝次訳

 何日か前に、論語の「温故知新」のことを書いた。金谷訳も宇野訳も示したが、どうもしっくりいかない気がしていた。
 図書館での新聞閲覧による調べ物の往き帰りにふと中野孝次さんの『論語の読み方』(海竜社刊)を手にして、なるほどと思った。
 中野さんは、こう読み解いている。「古典に新しい意味を発見するとき、それは生きる力になるのだ」と。

「子日,温故而知新,可以为师矣,」
「子曰く、故きを温めて新しきを知る、以て師と為すべし。」
孔子さまが言った、「冷えたスープは温め直して飲むように、そのままでは死物である古典をわが心に温めて生き返らせ、新しい意味を発見し、さらにそれをもって現代の出来事を正しく判断することができるようになったら、人の師となすことができる」

 これで、よく理解できる。古典をただそのまま読むのではなく、自分の心で温め直して、現実的な意味を発見して蘇生させながら、今起こっている現象・事件・事態を正しく理解・判断することが大切だと孔子は、論語は教えてくれるのだ。
 ということは、論語をただそのまま読み下しているだけでは不十分であり、論語の各章のフレーズを現代の事象にあわせて読みくだいてこそ、論語を読む師となれるのだ、と教えてくれているのだ。