『十八史略』の鼓腹撃壌の唄

 「十八史略」の巻一、帝堯陶唐氏の章に「鼓腹(こふく)撃壌(げきじょう)」という唄があります。

 「有老人、含哺鼓腹、撃壤而歌曰、日出而作、日入而息。鑿井而飮、耕田而食。帝力何有於我哉。」
 
 これの読み下し文はこうです。
 「老人(ろうじん)有(あ)り、哺(ほ)を含(ふく)み腹(はら)を鼓(こ)し、壌(じょう)を撃(う)ちて歌(うた)いて曰(いわ)く、日(ひ)出(い) でて作(な)し、日(ひ)入(い)りて息(いこ)う。井(い)を鑿(うが)ちて飲(の)み、田(た)を耕(たがや)して食(くら)う。帝力(ていりょく)何(なん)ぞ我(われ)に有(あ)らん哉(や)、と。」
 ここで、
 含哺 … 口の中に食べ物を含むこと。「哺」は口中の食べ物。
 鼓腹 … 腹つづみを打つ。食が足りて満足するさま。
 撃壌 … 大地をたたいて拍子をとる。「壌」は地の意。また、「壌」は土製の楽器、遊戯の具などの説がある。
 鑿井 … 井戸を掘る。
 帝力 … 帝王の威力。
 何有~哉 … 「何(なん)ぞ~有(あ)らん哉(や)」と読む。反語法

 これが、竹川弘太郎さんの『孔子 漂白の哲人』によれば、次のようになります。
 「お陽さまが出りゃ野良に出て
  お陽さまが沈めば引きあげる
  喉が渇けば井戸で飲み
  田を耕して飯を食う
  天子なぞどうでもいいわい」

 この十八史略の歌は、先の論語の微子18篇の第7章の子路孔子のことを訪ねた老人が孔子をからかったという場面の引用で使われているものです。

 じゅうはっしりゃく【十八史略】ジフハチ‥
 十七史に宋史を加えた十八史を摘録して初学者の読本とした書。元の曾先之撰。元刊本二巻。明
の陳殷の音釈本七巻。